北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問
一色賢司

食物アレルギーの発症事故報告が、表1のように多くなっています。リコール事例も報告されています。食物アレルギーの発症は、命を奪われる悲しい結果をもたらす場合もあります。

1 最近の食物アレルギー発症事件例

月日施設等食 品備考
5月30日三重こども園名称:米粉パン(小麦粉入り)確認不足、小麦アレルギー 児童1名発症、救急搬送
6月12日新潟こども園鶏卵入り洋菓子 確認不足、卵アレルギー 児童腹痛1名、薬投与
6月25日山梨中学校 給食、ビワ126人アレルギー症状、 3人病院、1名入院
6月28日新潟共同調理場 学校給食、ドリアソース 小麦・乳の除去対象者確認不足、3人アレルギー発症入院
7月5日香川給食センター学校給食、肉団子- 指定-小麦不使用納入業者ミス、 小麦アレルギー児童1名発症
7月20日秋田保育園牛乳確認不足、乳アレルギー児1名、救急搬送
7月29日神奈川学童保育昼食、シュウマイ-卵の表示なし つなぎに卵使用、卵アレルギーの児童1名嘔吐

201212月には、小学校給食で食物アレルギーによる死亡事故が発生しています。この事故の概要は、表2に示しました。悲しい事故を起こさないように、予防に努めましょう。給食施設のみならず家庭を含むあらゆる場面に、効率化や経費節減の波が押し寄せています。食品衛生の基本を忘れずに、安全第一を貫いていただきたいと願っています。

2 食物アレルギーによる死亡事故発生事例

  • 2012年12月20日(木)13時25分頃,調布市の小学校で、5年生の女の子(以下Sさん)が給食後体調不良を起こし、救急搬送された。午後4時29分死亡が確認された。死因は、食物アレルギーによるアナフィラキシーの疑いであった。
  • Sさんには、乳製品にアレルギーがあった。給食で「じゃがいもチヂミ」(チーズが使われていた)のおかわりを、しようとした。担任教諭が「大丈夫か?」と問うと、Sさんは保護者が念のために持たせている献立表を示した。その献立表の当該チヂミには、食べてはいけない料理を示すマーカー線はなかった。
  • 保護者、栄養士、担任との間で事前に取り決めていたルールでは、おかわりの希望があった場合は、担任は除去食一覧表で確認することになっていた。担任は献立表は見たものの、除去食一覧表の確認はしなかった。
  • 気分が悪くなったSさんに、エピペン注射をしようとすると「違う、打たないで」と嫌がった。症状が悪化したため校長が、14分後にエピペンを注射した。その後、救急車で病院に搬送されたが、女児は死亡した。
  • 事故後の検証では、どの料理が除去食であるかの情報確認がルール通りに行われていなかったことや、すぐにエピペンを打たなかったこと、食物アレルギーによるアナフィラキシーであることに思い至らなかったことといった初期対応の問題点が指摘された。

調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版より(PDF)

食品衛生や食品の表示制度を理解していない大人もいます。まして、子供さんだけでは食物アレルギーを理解し、予防対策を取ることは困難です。フードチェーンの全員で、予防対策への取り組くみが必要です。

1530日の米粉パンの例などは、関係者のプロ意識の向上と食品表示のさらなる改善が求められます。包装表面に「米粉パン」と書いてあっても、裏面には小麦粉が記入されている場合もあるようです。しっかりと、確認を取って食物アレルギー対策に取り組んでいただきたいと願っています。

625日のビワによるアレルギーの発症は、「口腔アレルギー症候群」に一致するものであろうと思われます。果物や野菜を食べたときに口の中に違和感が生じたり、のどや目がかゆくなったりする人が、増えているようです。

食品安全委員会は、食物アレルギーに関するファクトシートを作成し、公表しています 以下の資料も参考にして、食物アレルギー対策に取り組んでいただきたいと思います。

参考資料

  1. 食品安全委員会:ファクトシートの作成について
    アレルゲンを含む食品(総論)
    https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_General.pdf
    アレルゲンを含む食品(牛乳)
    https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_General.pdf
    アレルゲンを含む食品(小麦)
    https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_Wheat.pdf
  2. (一社)食品安全検定協会:食物アレルギー、食品安全検定テキスト中級、第3版、p.165 (2022)
  3. 藤田医科大学、消費者庁:食物アレルギーひやりはっと事例集 2022年度版
    https://www.fujita-hu.ac.jp/general-allergy-center/hiyarihatto.html
  4. (公財)ニッポンハム食の未来財団: 食物アレルギー
    https://www.miraizaidan.or.jp/allergy/about.html
  5. 日本アレルギー学会、厚生労働省:アレルギーポータル
    https://allergyportal.jp/provision/food-allergy
  6. 文部科学省: 学校給食における食物アレルギー対応指針
    https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/03/26/1355518_1.pdf
  7. 東京都: 食品アレルゲン管理ガイドブックhttps://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/k_shokuhin/eakon/f3ce2314e08ff07575677322e7381e52.pdf